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身体の仕組み・障害の特性理解のための神経科学研究

リハビリテーション現場における科学的エビデンスの構築を目的として、電気生理計測、脳機能計測・脳画像解析、
バイオメカニクス計測、行動計量分析、心理物理手法などの様々な計測・解析技術を駆使して、ヒトのからだの仕組み、
障害や病態の発現メカニズムに関する神経科学研究を推進しています。

​歩行運動と立位姿勢の神経制御メカニズム

動作解析や床反力計測、筋活動計測によるバイオメカニクス的研究、随意神経経路や脊髄反射経路の興奮性評価による神経生理学的研究、各種神経疾患症例の姿勢・歩行計測を通した歩行障害と姿勢障害の特徴把握などの包括的視点をもとに歩行運動出力の発現、柔軟な姿勢制御を実現する神経メカニズムの解明を目指した研究を推進しています。

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臨床歩行データベースの利活用による歩行障害の構造モデル

当研究室では、様々な歩行障害をもつ症例さんの歩行計測を実施しています。歩行データの計測目的は、直接的には対象症例さんの歩行障害の特徴抽出を行い、リハビリテーション指針策定に生かすなどの活用を進めますが、100例を超えるデータの蓄積に至っていることから、様々な疾患・障害症例のデータを後方視的に分析し、歩行障害の構造モデルを構築する試みを進めています。

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疾患や障害によって生じる中枢神経系の再組織化プロセスの解明

疾患や障害によって身体環境に変化(運動麻痺や感覚障害、体肢欠損)が生じると、その変化に適応する形で中枢神経系の各階層に興奮性変化、神経経路結合の変化が起こります。病態、症状として表出する諸変化の発現機序を正確に捉えるために、脳画像解析や電気生理手法、行動計量分析、心理物理計測などを試み、運動制御や身体や行動の認識にどのような変化が生じるのかを明らかにすることを目指します。

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体肢切断後の身体認識の変化と義手装着により生じる身体性変容プロセスの解明

体肢切断にともなう身体部位の欠落は、身体への認識のダイナミックな変化を生じます。体肢が欠落しても依然として脳内には身体の所有性や行為主体は残されていることに起因して生じる『幻肢:phantom limb』、その部位に生じる知覚体験としての『幻肢痛:phantom limb pain』は体肢切断による身体性変容を示す不思議な事象です。当研究室では幻肢の定量的把握を目的とした心理物理・行動計量分析と、義手装着に伴う身体認識の変化を捉える試みを通して、体肢切断後の身体認識の特性を把握する研究を進めています。

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新規計測技術・介入手法の臨床現場への実装

神経科学領域・バイオメカニクス分野・バーチャルリアリティ分野などで既に確立されている各種計測技術を医療・リハビリテーション現場の現場で活用し、病態把握や診断、リハビリテーション効果の定量的評価を可能にするしくみづくりを進めています。病態や症状を正確に捉えるためには、これまでに医療現場で培われてきた経験的知見や臨床推論に数値客観的な評価指標での裏付けを加えることで、より効果ある、エビデンスに基づくリハビリテーション医療を実現することを目指します。

​経頭蓋磁気刺激による大脳皮質運動野機能マッピング

経頭蓋磁気刺激(transcranial magnatic stimulation: TMS)は刺激コイルへの磁界誘導により脳内の神経細胞を興奮・発火させる手法で、運動指令を司る運動野に刺激を行うことで脳から脊髄、骨格筋に至る神経伝導経路の興奮性を評価できる、臨床的に極めて有用な計測技術です。
当研究室では、麻痺や感覚障害による運動制御方略の変化を定量的にとらえるために、麻痺領域を支配する運動皮質領域への広範囲の刺激と、麻痺筋の反応の関連性をマップ描出する方法を、短時間かつ制度高く実現できるシステムを構築し、臨床現場での活用とデータ蓄積を通して有用性を検証しています。

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脳画像・機能解析による病態基盤の理解

脳機能の障害による病態や症状は多岐にわたり、原因やメカニズムを理解することは決して容易ではありません。近年の脳画像・機能計測技術の進歩は病態理解や診断に大きく貢献し、また、症状改善のためのリハビリテーション指針を立案する上での有用な情報を提供します。
当研究室では、T1, T2等の解剖画像に加えて、拡散テンソル画像解析(Diffusion tensor imaging: DTI)による神経線維連絡の同定、脳容積解析(Voxel-based morphometry: VBM)など、臨床診断に有益な情報を提供し得る各種手法を用いた損傷領域・変性部位の同定を行っています。

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経頭蓋直流電気刺激による神経経路興奮性の合目的的変調

経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)は、頭部に配置した電極間に1―2mA程度の弱い直流電流を印加することで特定部位の神経活動を変調させる方法です。脳卒中後の機能回復、うつ病、片頭痛などに効果が既に報告されており、多様な症状への治療を想定して臨床研究が行われています。当研究室では、障害特性に応じた電極配置により、脳卒中半側空間無視(頭頂・側頭-前頭)、脊髄小脳変性症(小脳)、遷延性意識障害(左右頭頂及び頭頂-前頭)などの各種疾患への介入検証を試みています。

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視線計測とバーチャルリアリティ技術  の活用による視覚情報処理プロセスの解明

視覚情報はヒトの行動を成り立たせる上で欠かすことのできない要素です。眼球運動計測は、かつては環境構築や解析技術の煩雑さから臨床現場への応用が限られていましたが、近年では安価高精度のデバイスが流通しており、リハビリテーション現場での活用可能性が非常に高い技術です。リハビリテーション臨床で行われる認知課題や行動評価は、表出行動の成就に焦点を充てますが、視覚情報処理や認知処理のどのプロセスが病態基盤となっているのかを精緻同定することができれば、病態改善・症状軽減のためのリハビリテーション指針の立案に有益な情報を提供できる可能性があります。当研究室では、眼球および頭部運動計測、VR環境の活用による新しいリハビリテーション評価・介入システムの構築を試みています。

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車いすシミュレーターによる動作評価と座位姿勢の最適化

脊髄損傷者の多くは日常生活の移動を上肢による車椅子駆動によって代替します。特に上肢機能障害を持つ頸髄損傷者の場合、損傷髄節によって残存機能が異なるため、車椅子駆動に用いる筋群と駆動様式が異なります。現状、車椅子の処方や設定は療法士やメーカー技術者の経験に委ねられる部分が多く、明確な処方指針につながるような上肢の残存機能と車椅子駆動様式の関連性を示したデータは存在しません。そこで当研究室では、脊髄損傷者の車椅子駆動特性について、株式会社RDSと千葉工大未来ロボット研究センターと共同で開発した車いすシミュレーターを用いて、車いす駆動動作時の生体力学的計測を通した車いす設定の最適化を目指した研究を進めています。

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視覚情報処理・認知判断プロセス評価のための自動車運転シミュレーターの開発

運動機能には問題がない場合でも、視覚障害や認知障害によって、自動車運転が許可されないケースが数多く存在します。当研究室では、別途進めている高次脳機能障害の症状改善に関する医学的アプローチを社会生活支援に繋げる取り組みとして、自動車運転再開支援および運転可否判断のための評価用運転シミュレーターの開発を進めています。このシステムは、運転操作・技能の獲得を目的としたものではなく、運転時に要求される視覚情報の取得、認知が適切に行えているかを、眼球運動・頭部運動計測によって評価することを目的としています。

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当研究室の開発ツールを用いた多施設連携研究の推進

ヒトの身体の仕組み、身体運動のメカニズム、障害の特性に関する研究を通して得られた知見をベースとした仕様策定・設計試作を行い、
複数の連携病院を臨床フィールドとして共同研究を行い、臨床評価を経た製品化、現場実装を行うまでの一環プロセスを進めています。

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半側空間無視の病態メカニズムの解明

脳卒中後に生じる高次脳機能障害の1つである半側無視の症状特性把握と病態メカニズムの評価を進めています。従来より臨床現場で用いられている行動性無視検査BITに加え、独自開発したタッチパネルデイズプレイと視線計測を用いた評価手法、脳画像解析による病巣部位の定量化を目指し、外部医療機関との多施設共同研究を推進しています。


最近の論文発表のプレスリリース記事

​​連携病院:村田病院、静岡リハビリテーション病院、西大和リハビリテーション病院、埼玉みさと総合リハビリテーション病院、広南病院、中伊豆リハビリテーション病院、愛宕病院、竹川病院

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姿勢障害の特性理解に基づく新しいリハビリテーション手法の開発

1000例を超える重心動揺データの蓄積・分析を通して姿勢障害の特性理解に努め、重心動揺リアルタイムフィードバックによる重心動揺変数の変化から姿勢制御の特徴づけを行っています。今後は下腿筋活動計測による姿勢制御特性を理解するための新しい計測環境構築を進めており、今後さらに研究を展開していく予定です。

​​連携病院:摂南総合病院、静岡リハビリテーション病院、西大和リハビリテーション病院、沼津リハビリテーション病院、竹川病院

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把持力計測による手指運動調節の特性理解と触覚フィードバックによる介入手法

手指でモノを持つ際には、把持物体の重量や表面の摩擦に応じた力発揮調節が行われますが、運動麻痺や感覚障害をもつ症例さんでは、十分な把持力発揮ができなかったり、感覚障害の影響で過剰な力発揮を行ってしまうなどの特徴が現れます。そこで、手指による物体把持時の運動制御の理解を目的として、様々な疾患・障害症例を対象とした把持力計測の計測と分析を進めています。

感覚障害による運動制御の停滞を解決するための1方策として、指が物体に触れたタイミングや質感を検知し、振動子を介した感覚代行フィードバックを行うデバイスを開発し、介入前後の変化を把持力計測の結果により検証する臨床研究を、以下の病院との共同で進めています。


連携病院:静岡リハビリテーション病院、摂南総合病院、愛宕病院、中伊豆リハビリテーションセンター、桜十字病院

再生医療とリハビリテーションに関する臨床研究

慢性期脊髄損傷者を対象とした臨床試験の推進

当研究室では、病院・再生医療リハビリテーション室との連携のもと、外部再生医療実施機関との共同研究を推進し、再生医療と

リハビリテーション実施による脊髄損傷者の身体諸機能の改善効果検証に関する臨床研究を進めています。

当センターの取り組みについては国リハニュース掲載記事(2020年4月)をご覧ください。

慢性期脊髄損傷者を対象とした

脊髄への自家嗅粘膜移植​とリハビリ

テーションの併用効果の検証

大阪大学医学部付属病院との共同臨床研究
※2017年開始、2021年8月をもって終了

脊髄への自家嗅粘膜細胞移植は、動物モデルでの皮質脊髄路再建の成果に立脚し、2000​年初頭より慢性期脊髄損傷者への臨床応用がポルトガル、オーストラリアなどを中心に進められ、本邦でも2013年に大阪大学医学部付属病院が中心となって臨床試験が開始されました。当センターでは2017年より慢性期胸髄損傷症例を対象とした、リハビリテーションとの併用効果についての臨床研究を開始し、2021年までの間に5症例の検討を進めてきました。

この手法は劇的な機能改善をもたらすものではありませんが、脊髄完全損傷者の損傷境界領域の尾側への機能拡張を示唆する重要な結果を得ています。同研究は5症例をもって終了となり、現在その成果を関連学会にて発表し、論文にて公表するための準備を進めています。

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慢性期脊髄損傷者を対象とした
骨髄間葉系幹細胞静脈とリハビリ
テーションの併用効果の検証

※2019年開始、現在継続中

札幌医科大学病院が実施している骨髄間葉系幹細胞投与は、骨髄より採取した幹細胞を培養して静注する方法で、脊髄への直接の手術を必要としません。亜急性期症例に対しては「ステミラック注」の名称にて薬価収載となっている方法ですが、亜急性期での効果検証では細胞投与の効果と自然回復の効果を区分することができないなど、エビデンスが充分ではないとの指摘があります。当センターでは2019年より、慢性期脊髄損傷者に対する骨髄間葉系幹細胞投与とその後のリハビリテーションの併用効果を検証する臨床研究を開始しました。私たちの立場は、再生医療とリハビリテーションの効果検証を行うためのモデルとして自然回復の影響を最小化 し得る慢性期脊髄損傷の症例をあてがい、機能改善の程度とそのメカニズムを精緻検討する狙いがあります。

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